チェコで医学を学んだ後の進路

2023年07月02日

海外の大学を卒業して医師になる道

「海外の大学への留学」という選択肢が、高校生の進路選択においてこれまで以上に選ばれる様になっています。開成高校は、東京大学の合格者数が30余年に渡り連続トップであることで有名ですが、東京大学の合格者数が減ってきています。その理由の一つは、欧米の名門大へ学生が流れているためです。

例えば日本で医師になることを志した場合には、日本の大学の医学部を卒業し、国家試験に受かれば医師免許を取得できます。しかし、入学試験の倍率は高く、まず入学するのが大変で、私立の大学では他の学部と比べると学費が数倍することがネックになります。ある年の医学部の入学者の構成は、現役の受験生が35%、1浪が27%、2浪が14%、3浪が7%、それ以上が15%となっています。この難関に落ちた受験生の中には、もし入学さえできていれば、大学を卒業するだけの実力がある学生もいたかも知れません。

その様な医師を目指す学生の選択肢として、近年、東ヨーロッパ(ハンガリー、チェコ、スロバキア、ブルガリアなど)の医学部に入学する日本人が増えています。その理由は、(1)教育・研究の水準は日本の国公立大学に劣らないにも関わらず、入学のハードルが比較的低いこと、(2)学費は日本の国公立大学よりは高いけれど、私立大学に比べると半分以下に抑えられることなどがあります。教育・研究の水準に関しては、例えばチェコの医学部には、世界ランキング500に入る大学として、国立カレル大学(150-200位)、国立マサリク大学(401-450位)、国立パラツキー大学(451-500位)があります。日本の東京大学(26位)にはもちろん及びませんが、カレル大学のランキングは、北海道大学、九州大学、名古屋大学と同水準です。

チェコの大学を卒業すると得られる3つのもの

チェコの大学を卒業することで主に3つの資格を得ることができます。
(1)EU各国で有効な医師免許、(2)米国医師免許試験(USMLT; United States Medical Licensing Examination)の受験資格、(3)日本の医師国家試験の受験資格(要審査)です。もし、日本・米国で医師として働きたい場合には試験に合格する必要がありますが、EU圏内であれば医師として働くことができます。

卒業後の進路①医療機関で臨床医として働く(日本・米国)

海外の大学を卒業した場合、個別の審査で認定された場合に、日本の医師国家試験を受けることができます。その後、2年間の卒後臨床研修(いわゆる初期研修)を終えると、麻酔科以外の診療科を標榜することができます(麻酔科は麻酔科標榜位の資格取得が必要です)。日本では医師不足が叫ばれていて、売り手市場のため、職場を選ばなければ仕事は簡単に見つかります。しかし、2028年には需要と供給が釣り合い、それ以降は、医師の供給過多になることが予測されています。供給過多になれば、「医師の平均年収」は下がり、一つのポジションに対する競争も厳しくなるため、思う様な職に就けない医師も出てくることが想定されます。しかし、チェコを始め、外国の大学を出ていれば、英語が必要な場面で活躍できるので、その様な競争においてアドバンテージになるのではないかと思います。

チェコの大学を卒業した後に、米国で医師として働く道もあります。米国で医師として働くためには、米国医師免許試験に合格する必要があります。STEP1から3まであり、米国の学生は、STEP1と2を医学部在籍中に受験し、その後、STEP3を卒業後に受験するのが一般的です。なお、米国では各州で医師免許を取得する必要があります。

日本の大学に通う学生の中にも、この試験のために勉強している学生がいます。チェコの大学で医学を英語で学んでいれば、日本の学生に対してアドバンテージになるかも知れません。

卒業後の進路②行政機関で働く

医療機関で臨床医として働く以外にも、医師の知識・技能が必要とされる場所は色々とあります。例えば、厚生労働省には医系技官という職種があります。医系技官とは、医師免許を有し、専門知識を持って保健医療に関わる制度づくりに貢献する技術系行政官のことです。政策立案のため現場を知り、議論をして新たに政策案・法案を作り、時に既存の仕組みを改善します。行政に関する他の仕事としては、WHO・世界銀行・医療政策シンクタンクなどがあります。ここでも、特に国際的な案件では、英語が話せて、ヨーロッパに通じていることはアドバンテージになる可能性があります。

卒業後の進路③企業で働く

企業には産業医として、働く人の健康診断や健康相談を行う仕事もありますが、その他にも医師でなくてはできない仕事はあります。例えば、製薬会社・医療機器メーカーでは、専門知識が求められる仕事があります。また保険会社での、加入審査業務などもあります。保険への加入申し込みを受けて、保険加入の適否を判断する仕事です。

最近、盛り上がっている業界に宇宙開発があります。もちろん宇宙に関わる仕事の中にも医師でないとできない仕事があります。例えば、JAXAは宇宙飛行士の健康管理に関わる航空宇宙医師(フライトサージャン)のポジションがあります。国際宇宙ステーション(ISS)への出張の仕事もあり、宇宙開発に興味がある方にはもってこいの仕事です。ISSでは日本人以外と英語でコミュニケーションを取ることもあるかもしれません。

チェコを始めとする海外に出て医学を学ぶメリットは、この他にもあると思いますが、何と言っても「英語」で「様々な国籍の学生と関わりながら学ぶ」というのが、日本で医学部に通った場合には得られないメリットになるのだと思います。

引用
インターエデュ. (2019). 速報!2019年 東大・京大・難関大学合格者ランキング.
NIKKEI STYLE. (2018). 「東大一直線」に曲がり角 開成生も海外大志向へ|出世ナビ.
厚生労働省. (n.d.). 医師国家試験受験資格認定について.
厚生労働省. (n.d.). 医系技官とは.
日本経済新聞. (2018). 医師需給 28年ごろに均衡 厚労省推計、将来は供給過剰に.
JIGH. (n.d.). JIGHは、医療領域の課題解決に取り組む政策シンクタンクです。|ミッション.
リクルートドクターズキャリア. (n.d.). いしが選ぶ臨床以外のフィールド.
JAXA. (2018). フライトサージャン業務支援医師常時募集.
日経メディカル. (2018). 宇宙に出張、先生も行ってみませんか?